芸術というのは心術だ―――といったのは北大路魯山人である。
岩井純もまた「自然の四季に基づいた風物のモチーフが、日本人の表現世界にある。その自然観から生まれた伝統的な文様と対峙しながら、器の機能の”用”に精神的なもの、感性を刺激する感覚的なものを加える」というのだ。
草原を思わせる緑一杯の環境の中で、芸術と自然の共存をはかる岩井氏は、確かな技術と情熱を持って『用の美』である器に的確な調和をあたえ、国際的にも活躍する頼もしい陶芸家である
難技法といわれる結晶釉に果敢に挑戦した岩井氏は永年の精進模索の中でデリケートな釉薬と焔のテクニカルな操作を微妙に感じとった。この玄妙さをもつ釉調がシャープな造形にむすびついた。
加えて用としての機能をもつ1つ1つの作品に官能的ともいえる結晶華の景色を描きだした。
なかでも釉表に活性化する「静中の動」ともいうべき、独特の輝きをひろげる『結晶華』は、釉の調合と徐冷焼成による量感あるマチエ−ルと轆轤による端正でシンプルなつくりがスリリングな効果さえもたらしている。
さらに天目釉に色彩釉を施すことで、漆黒の中に天空を思わせる無限に深く豊かな美をも追求する。
絶えざる精進の中、さらなる展開を武器に「今様の美」という岩井純の粋な叙情がモダニズムの共存を生み、香り高い平成の「きれい寂」を心術とともに開花させたのである。
2006年「開窯30周年・作品集に寄せて」 黒田草臣
しぶや黒田陶苑